はじめに、以下の英語を読んでみてください。これはある方から教わったものです。中学生程度の簡単な英語ですが、対訳がつけてあります。
Important Qualities (たいせつなこと)
- Father and Mother, thank you. (お父さんお母さん、ありがとう!)
- Let’s get along together respectably. (一緒にしっかりやろうよ!)
- Let’s help and support one another. (二人で助けあっていこう!)
- We understand one another. (お互い、わかってるよね)
- Sorry I’ll think it through carefully. (ごめんなさい、よく考えてみます)
- I’ll be kind to everyone. (みんなにやさしくします)
- I’ll keep studying and making effort. (進んで勉強し努力します)
- I’ll be happy to help you. (喜んでお手伝いします)
- I always keep my promise. (約束は必ず守ります)
- I’ll be hold and more my best effort. (勇気を出してがんばろう!)
- I’ll continue to value good quality. (いいものは、いつまでも大切にしていきます)
- I’ll try first on my own. (まず、自分でやってみます)
いかがでしたか? 長い間、英語から離れていたのでちょっとした英語の勉強だと思って私も読んでみました。翻訳された日本文と参照しながら読み比べてみると「へぇ、さすがに上手に翻訳してあるなぁ」と変なことに感心したりもしました。文章の内容はいたって常識的です。簡単なやさしい言葉で、しかし誰にでも分かるようにきちんとした大人、立派な人格をもった人間になるための大切な心構えが書かれてあります。人間として当たり前のことばかり。但し、“言うは易し行うは難し”、実際にはなかなか実行できないことですね。本当に今からでも見習ってこのように生きなければ、と襟を正して読んだものです。
でもこれはいったい何に書かれてある文章なのでしょうか? アメリカの小学校のテキスト?英国の古くからの言い伝え? いえいえ違うようです。そこでもう少し硬い日本語にしたものを併記してみます。
- 親に感謝する →孝行
- 兄弟仲良くする →友愛
- 夫婦で協力する →夫婦の和
- 友達を信じあう →朋友の信
- みずから反省する →謙遜
- 広く全ての人に愛の手をさしのべよう →博愛
- 知恵を磨く →修業習学
- 公(おおやけ)のために働く →公益世務
- 規則に従い約束を守る →遵法
- 祖国に尽くす →義勇
- 伝統を守る →伝統継承
- 手本を示す →率先垂範
もうお分かりですか?やっぱりわからない?実は順序が逆なのです。本当ははじめに日本語の文章があって、それをやさしく翻訳(意訳)したのが最初に挙げた英文という訳です。さらにこの文章には大元の原文があります。
朕(ちん)惟(おも)フニ、我(わ)ガ皇祖皇宗(こうそこうそう)國ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠(こうえん)ニ、德ヲ樹(た)ツルコト深厚ナリ。我(わ)ガ臣民(しんみん)克(よ)ク忠ニ克(よ)ク孝ニ、億兆(おくちょう)心ヲ一(いつ)ニシテ世世(よよ)厥(そ)ノ美ヲ濟(な)セルハ、此(こ)レ我(わ)ガ國體(こくたい)ノ精華ニシテ、教育ノ淵源(えんげん)亦(また)實(じつ)ニ此(ここ)ニ存ス。爾(なんじ)臣民(しんみん)父母(ふぼ)ニ孝ニ、兄弟(けいてい)ニ友(ゆう)ニ、夫婦相(あい)和シ、朋友(ほうゆう)相(あい)信ジ、恭儉(きょうけん)己(おの)レヲ持(じ)シ、博愛衆ニ及ボシ、學(がく)ヲ修(おさ)メ、業(ぎょう)ヲ習(なら)ヒ、以(もっ)テ智能ヲ啓發シ、德器(とっき)ヲ成就シ、進(すすん)デ公益ヲ廣(ひろ)メ、世務(せいむ)ヲ開キ、常ニ國憲(こっけん)ヲ重(おもん)ジ、國法(こくほう)ニ遵(したが)ヒ、一旦(いったん)緩急(かんきゅう)アレバ義勇(ぎゆう)公(こう)ニ奉(ほう)ジ、以(もっ)テ天壤無窮(てんじょうむきゅう)ノ皇運(こううん)ヲ扶翼(ふよく)スベシ。是(かく)ノ如(ごと)キハ獨(ひと)リ朕(ちん)ガ忠良(ちゅうりょう)ノ臣民(しんみん)タルノミナラズ、又(また)以(もっ)テ爾(なんじ)祖先ノ遺風ヲ顯彰(けんしょう)スルニ足(た)ラン。 斯(こ)ノ道ハ實(じつ)ニ我ガ皇祖皇宗(こうそこうそう)ノ遺訓ニシテ、子孫臣民(しんみん)ノ倶(とも)ニ遵守(じゅんしゅ)スベキ所(ところ)、之(これ)ヲ古今(ここん)ニ通(つう)ジテ謬(あやま)ラズ、之ヲ中外(ちゅうがい)ニ施シテ悖(もと)ラズ。朕(ちん)爾(なんじ)臣民(しんみん)ト倶(とも)ニ拳々服膺(けんけんふくよう)シテ、咸(みな)其(その)德ヲ一(いつ)ニセンコトヲ庶幾(こいねが)フ。
明治二十三年十月三十日
御名御璽(ぎょめいぎょじ)
あまりに難しいので現代語訳を載せます。
(現代語訳)
私が思うには、我が皇室の先祖が国を始められたのは、はるかに遠い昔のことで、代々築かれてきた徳は深く厚いものでした。我が国民は忠義と孝行を尽くし、全国民が心を一つにして、世々にわたって立派な行いをしてきたことは、わが国のすぐれたところであり、教育の根源もまたそこにあります。
あなたたち国民は、父母に孝行し、兄弟仲良くし、夫婦は仲むつまじく、友達とは互いに信じあい、行動は慎み深く、他人に博愛の手を差し伸べ、学問を修め、仕事を習い、それによって知能をさらに開き起こし、徳と才能を磨き上げ、進んで公共の利益や世間の務めに尽力し、いつも憲法を重んじ、法律に従いなさい。そしてもし危急の事態が生じたら、正義心から勇気を持って公のために奉仕し、それによって永遠に続く皇室の運命を助けるようにしなさい。これらのことは、単にあなた方が忠義心あつく善良な国民であるということだけではなく、あなた方の祖先が残した良い風習を褒め称えることでもあります。
このような道は、実にわが皇室の祖先が残された教訓であり、その子孫と国民が共に守っていかねばならぬことで、昔も今も変わらず、国の内外をも問わず、間違いのない道理です。私はあなた方国民と共にこの教えを胸中に銘記して守り、皆一致して立派な行いをしてゆくことを切に願っています。明治二十三年十月三十日
最初に挙げた12の箇条書き、これは、1890年(明治23年)10月30日に、明治天皇の名で国民に向けて発表された勅語、「教育ニ関スル勅語」を12の徳目として整理したものを英訳した、つまりあの教育勅語が原典なのです。
みなさん、どう思われました? 今までに教育勅語というものに触れたことがありましたか? 私はびっくりしました。今も生きる上で手本にしなければならないような大切なことが書かれてあったものとは、本当にこの目で読むまで知らなかったのです。私たちは「教育勅語」という言葉を見て、原文すら読まず、意味するところも知らずに、条件反射的に国民をないがしろにし、日本を戦争へと追いやった「軍国主義」の象徴というイメージに直結してしまっているのではないでしょうか?
でも実際に読んでみていかがでした? 書かれているのは人間として洋の東西、時代を問わず私たちが人として欠くことのできない「大切なこと」ばかりです。それを“モラル” と呼んでも「道徳」と言っても変わりがないかもしれません。
ある方が、人類の普遍的なモラルや道徳とは、
- 自分の良心に恥じない生き方をする。
- 他人のためになれることの喜びを知る。
- 他人への思いやりの大切さ。
- 生き物への愛情や、情け心を持つことの素晴らしさ。
- 先祖を大切に思う気持ち。(今の自分が居るのは、先祖が生きてくれたからです)
に凝縮できると仰っていました。まさに教育勅語に書かれていることも、様々に異なった宗教や哲学を超え、時代や国が異なってもなお、人々が生きる上での基本となる人として大切な精神、人間としての目標とするべきことばかりです。
私がここに申し上げたいことは、教育勅語に書かれてあること、その内容の大切さのことだけではありません。それだけではなく、たとえば教育勅語のように私たちが読みもせず触れもしていないことの中に、いかに多くの先入観や偏見が充ち溢れているか、そしてその無知や偏見のために、いかに多くの大切なかけがえのないものを得ることもせず失っているかということです。
日本には昔から「心眼を開く」という言葉があります。物事の真実の姿を見抜く鋭い心の働き、心の眼差しのことです。
曇りのない幼子のような素直な目で積極的に物事と出会いましょう。その中で大切だと思ったこと感動したことにもっと正直になりましょう。何事にも好奇心をもって向学の心を絶やさず、広く邪心のない心で人やモノと出会い、理解を深めていけば、やがて私たちは物事の本質や真実を見抜く力を少しずつ養って、いつしか心眼を得られるのではないかと思います。
2013.1.7