1日のはじまり

今年の1月から、朝約30分間、小学生の登校を見守る「見まもり隊」を引き受け、自宅に近い城東区三丁目の三角公園の前の道に立ち、元気な子どもたちとあいさつを交わしてから出勤する日々を送っています。

必ず規則正しく定時に出てくる子がいれば、いつも遅れてやってくる子や慌てて忘れ物を取りにかえる子もいる。身だしなみがきちっと整った子がいるかと思えば、ボタンが取れていたり、スカートの裾が解れていたり、それがいつまでもたっても直せずにいる。カバンが重くてしんどそうに片側にひしゃいで歩く子がいたり、両手に手荷物をいっぱい持ってモタモタ歩く子もいたり・・・。

年齢のせいか、気になる子どもの姿を追い、「親は気づいているのだろうか? あぁ、早く大きくなって自分のことは自分で何とか出来るようにね・・・」と毎日老婆心の連続です。

春になって、そんなある日、ふと目を遣ると電信柱の支柱の根元、舗装の割れ目からニョキニョキ可愛らしい新芽が顔をのぞかせているではありませんか!

集団で児童たちがやってきます。いまにも踏みつけられそうです。

「あっ・・、あっ・・」と手が出そうになったり声が出そうにもなります。子どもたちといえば、横を向いたり後ろ歩きをしたり、お友だちとの話に夢中だったりはしゃぎ合ったりと、むろん新芽などには目もくれません。雨傘を持った日など、傘をぶらぶらさせていまにも新芽が折れそうなものですが、不思議に踏まれることもなく、子どもたちは近寄りながらも避けるように通り過ぎていってくれるのです。

冷や冷やしているのは私だけなのか? 新芽に向かって「早く大きくなってね」と願うなか、一日一日、みずみずしい透きとおった緑の芽は大きく育っていきます。やがて茎はしなやかに伸び、青々とした葉が繫り、ある日、見まもり隊の相方である奥さんが「昨年も一昨年も可愛い花が咲きましたよ」と教えてくださいました。

4月はまだ寒いのか蕾は出てきません。連休が過ぎ、5月の初旬には背丈は1メートルをゆうに超えました。5月15日、ようやく硬そうな小さな蕾がつきました。その姿は子どもから一人前の少年になったいでたちです。凛々しくすっと立っています。

道往く人も足を止め、頬笑みながら、「根っこはどこから?」と覗き込んでいる人もおられます。

「えらいとこから顔を出して・・・」「踏まれずに、よぉ育ったなぁ・・・」「どんな花が咲くんやろ、楽しみやなぁ」と皆さん感嘆しきり。毎年花が咲いているのを見ているらしき人は、いささか自慢げに「ほんま、可愛いでぇ・・・」とニンマリ。噂によると近隣の少し強面のご主人が毎日水やりをしておられるとのこと。“野に咲く花”といっても心優しくきちんと育ててくださっている方がいらっしゃったのです。

5月20日。ついに蕾がほころび、一輪の小さな花が咲きました。電柱と舗装路の割れ目、いかにも都会の険しく厳しい環境の中からこんなにも美しく可憐な花が咲くなんて・・・。行き交う人、登校する子どもたちの中にだって、きっとこの日を待ち望んでいた気持ちがあったと思います。お世話してくださっているご主人、「今年も綺麗に咲いたなぁー」お顔が嬉しそうにゆるんでいます。

薄いピンク色の、まるでクレープ紙で作ったような、『葩』(はなびら)と漢字で書くと似合いそうな美しい花びらをもったお花です。

毎朝、いつものように集団登校する子ども達も、この花のように、強く逞しく1日1日大きくなって、やがて誰にも負けないそれぞれの美しいお花を咲かせてくださいナ。野に咲く花だって、優しく見つめる人、愛おしむ人、そして人知れずお世話をする人がいるように、あなたたちの背後には、この世界には、数多くの皆さんが、あなたたちを大切に見まもっていますよ。だから不安がらず、心配することなく、すくすくと伸びていってください。

ところで野に咲くお花さん、貴方のお名前は「タチアオイ」さん、それとも「ゼニアオイ」さん?

2014.5.23