幼児教育と養護 ~法人の87年の歴史を顧みながら~

一昨年(平成29年8月)、昭和35年から諸先輩が実践を通して始まった法人の乳児保育、その狙いや目的、保育法を、職員たちが基本的な事項から写真や図解と共に分かりやすく、保育の手引、エッセンスとしてまとめてくれた「乳児保育 すこやかな育ち」が完成しました。そして今回、私たち法人の幼児教育と養護に関するまとめを、職員たちの手で一冊のガイドブックにしてくれました。

幼児教育が世界(ヨーロッパ)に出現したのは約2世紀前のこと、日本においても幼児教育は140年ほどの歴史があります。その間、世界はもとより今日に至る日本の歴史を振り返れば、国民の教育に対する熱意、教育に携わる人々のたゆみない努力、その成果が近代日本の発展や質の高い国民の姿であり、その最も基本となったのが幼児教育であったといっても過言ではありません。特に近年、世界では幼児教育に関する研究が進み、幼児教育の成果がその後の学業のみならず、個々の人生において重要な要素を占めること、あるいは貧困や犯罪等々の社会問題とも深く関連していることが分かってきました。そのようなことから欧米はもとより、一部のアジアの国々の幼児教育の投資は、はるかに日本を追い越してきているのが現状です。もちろん日本においても、待機児童問題や女性就労の問題と同時に、幼児教育の質の向上の必要性が認識され、予算に関しても少しずつではありますが増えてきているように思います。

しかし、いまだ日本の法律は、幼稚園と幼保連携型認定こども園は学校教育法の学校であり、保育園は児童福祉法上の福祉施設、あくまで“保育を必要とする子ども”を預かる施設ということになっています。ただそのような法的な建て前とは別に、現況の日本の社会においては、子どもの半分は幼稚園、半分は保育園に入園しているのが実情であり、幼保統合が早々にできないとしても、幼児教育は、幼稚園、保育園の枠を超え、地域によってはある程度の共通化してよい時代に入ってきているのだと思います。

さて、私たち法人は、昭和6年(1931年)、地域の子どもたちの養護と教育を受け持つ都島幼稚園として出発しますが、以降、不幸な大戦や敗戦、衣食住の欠乏した焼け跡を経たのち、戦後昭和25年、子どもを守る児童福祉法のもと、〈保育を必要とする児童を預る施設〉と規定される保育所として再出発します。ただ当時から法人では幼児教育の重要性や必要性を訴え、実質、戦前の都島幼稚園から続く幼稚園同様の幼児教育を養護と共に今日まで行ってきました(その意味で、甚だ手前味噌にはなりますが、戦後70年、国や行政もようやくここまで来たか、の思いがあります)。

そうした法人の歴史を踏まえ、さらに今日、国や行政が幼児教育の質の向上や無償化へと舵を切る中、私たちはより一層質の高い幼児教育の実践を行うため、現在、職員のスキルアップや専門性の強化を目的とした研修制度の拡大改善に取り組んでいます。また同時に『比嘉正子地域貢献事業研修センター』において、「都島友の会 保育士等キャリアアップ研修」を開催、法人職員のみならず、外部からも多くの保育士が受講され、リーダー的役割を担う保育士・保育教諭の育成に力を注いでいます。

2020年、わが国では、戦後、最大規模の教育改革が始まります。大学入学共通テストが実施され、小学校では新指導学習要領が全面実施されます。中でも教育改革の優先課題として、生涯にわたる生きる力や人間形成の基礎を培う幼児期への教育が重要視されています。

私たち法人ではこれまでから遊びを通して「資質・能力」を育てる幼児教育を行ってきました。子どもたちは遊びの中で様々な発見をし、自分がやりたいことをうまく楽しくやるためにはどうすればいいか考え、工夫し、自在に想像力を発揮します。友達と意見がぶつかることもありますが、その中で相手を思いやることや協力することを学んでいきます。これはまさに新指導学習要領にある「主体的・対話的で深い学び」、あるいは幼児期での【非認知能力】の形成に結びつくものです。人として基本的な生活習慣や態度を育て、道徳性の芽生えを培い,学習意欲や態度の基礎となる好奇心や探求心を養い、創造性を豊かにする…。

今回職員たちが、様々な試行錯誤を重ねながらまとめてくれた「幼児教育・保育」ガイドブック。これまで私たち法人が培ってきた経験を分かりやすくまとめてくれました。全体的な計画のもと、育ちや年齢に応じて今何をすべきか、何が大切かを一目で見通せる短期と長期に分けたカリキュラム。そして、それを運営するマネジメントのノウハウ。あるいは個々の教育保育の方法や内容の点検、それらを写真と共に見やすく参照でき、誰もが客観的な共通理解をもって取り組み指導できる一冊となりました。法人にとってかけがえのない宝物が、また一つ生まれました。

2019.1.24