『ポストコロナ時代に向けて』

~人と人とのつながりを取り戻すために~

気がつけば早や3月になりました。寒く冷え冷えとした空気がいつしか柔らかく緩み、草木は芽生え、うららかな春を迎えようとしています。令和5年(2023年)3月1日、創立92年を迎えたこの日は新型コロナウイルス感染拡大から4回目の春を迎えることになります。

コロナ禍もようやく落ち着きを見せ、本年5月8日には感染症として重症化リスクや感染力が高い2類相当の扱いから、季節性インフルエンザと同じ5類に移行されます。この3年、世界は大変つらい時期を過ごしました。この間、世界で多くの方々が新型コロナウイルスに罹患し、亡くなられました。心からご冥福をお祈りいたします。渡航や人の移動、人の集りも制限され、そのため旅行、イベント、音楽会、果ては外食に至るまで大きな影響を蒙ることになりました。

都島友の会でも私たちの暮らしは一変、日常の活動や行動が大きく制限されるなど、その影響はとても大きなものでした。高齢者施設ではクラスターや感染防止の徹底のため、入居者の外出が出来なくなり、面会も大きく制限されるなど、大変なご不便をおかけすることになりました。また児童施設では行事やイベント、日常の活動一つひとつに三密の壁が立ちはだかり、これまで当たり前だと思われたことが出来ない中、それでも職員たちは感染防止に努めながら、日々、様々な工夫を凝らし、こころをひとつにして教育・保育を行ってきました。もちろん、保護者や地域の方々のご協力やご支援があっての賜物です。本当にありがとうございました。

コロナ禍でこれまで空気のように当たり前であったことが当たり前でなくなるというかつてない経験、とりわけ大きかったのは、ソーシャル・ディスタンシングによって、毎日顔を合わせるのが当たり前だった人たちと会ったり集ったりすることがとても難しくなったことではないでしょうか。そのことで人や社会と自分が直接つながっているという感覚や経験が希薄に、またその重みや意味も変わっていったのではと思います。 

コロナ禍を経て、社会が大きく変わっていく可能性が指摘されています。たとえば、本格的なデジタル社会の到来。パソコン画面の「向こう」と「こちら側」、いわばバーチャルな世界でコミュニケーションを取ることが日常となり、人と人との関係、そのつながりのあり方もまた変化していったようにも見受けられます。リモートでも十分に仕事がこなせ、移動にかかる無駄な時間が減る一方で、直接でなければ得られない人とのつながりが失われることが懸念されています。

Withコロナ、Afterコロナの時代に向けて、私たちはこれから時代とどう向き合い、どのように対していけばよいかと考えます。

私たち法人は、これまでから人と人とのつながりをことのほか大切にしてきました。子どもたち、高齢者、保護者やご家族、そして地域の方々…。そして様々な事情で人との関係が断たれ、社会から零れ落ち取り残された人々に向けて、本来あるべき人とのつながりを取り戻すこと、その支援をすることが私たち社会福祉事業をする者の大きな使命だと考えてきたからです。

今回の危機では、富裕層から貧困層まで、世界中の人が等しく感染リスクにさらされるなか、感染は他人事ではなく、社会に暮らす私たちひとり一人の問題だというある種の連帯感が生まれ、同時に多くの人が「個」で生きることの厳しさや寂しさ、弱さに気付くきっかけになったと思います。個人は一人一人では無力です。一人では幸せを感じることも難しい。だからこそ、あらためて人と人との「結びつき」「つながり」の大切さを多くの人が深く実感出来たのではないでしょうか。新たな生活様式や多様な価値観の広がり、そしてデジタル時代の到来。新しいテクノロジーや考え方を取り入れながら、その中でも『社会福祉』という変わらぬ使命を人々と共有するにはどうすればよいのか、これから私たちが考えねばならぬことは以前にもまして大きいと感じます。

少子化の流れ

昭和22~24年第一次ベビーブーム
出生率4.32(2696638人)
昭和46~49年第二次ベビーブーム
出生率2.14(2091983人)
平成元年出生率1.57
エンゼルプラン(119万人)
平成12年新エンゼルプラン(100万人)
平成17年出生率1.26
平成27年新制度(100万人切る)
平成30年(921,000人)
令和3年最低出生数(81.1万人)

さて現在の日本は、公的債務や財政問題、高齢化と社会保障など、多くの難題を抱えていますが、中でも重要なのが「急速な少子化」です。この3月17日、岸田首相の記者会見の文章を引用します。

「…我が国は歴史的転換点にあり、これを乗り越える最良の道は「人への投資」だと申し上げてきました。…その大切な「人」ですが、2022年の出生数は過去最少の79万9,700人となりました。僅か5年間で20万人近くも減少しています。2030年代に入ると、我が国の若年人口は現在の倍の速さで急速に減少することになります。このまま推移すると、我が国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなります。2030年代に入るまでのこれから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスです。子どもは国の宝です。この国難に当たって、政策の内容・規模はもちろんのこと、社会全体の意識・構造を変えていく、そのような意味で、次元の異なる少子化対策を岸田政権の最重要課題として実現してまいります。…」

岸田首相の記者会見で語られたこの危機感、国難とまで表されたその思い、まさに我が意を得たり、です。

わが国では1970年代前半に200万人程度であった出生数が、2021年には約81万人に減少しています。この流れが継続すると今後10年程度で出生数が70万人を割り込む可能性もあり、2040年には60万人割れ、2052年には50万人割れとの推計もあります。人口減少を直ちに反転することはできませんが、少子化のトレンドの転換が遅れれば遅れるほど、人口減少は加速します。岸田首相が述べられたとおり、本当に今回が最後のチャンスかもしれず、政府は不退転の決意で頑張ってほしいと願います。

「子どもは国の宝なのだ」。半世紀以上も前、戦争に敗れ、戦後復興の日本の中で法人の創設者比嘉正子が同じ言葉を切々と訴えていたのを思い出されます。子育ては親だけが担うことだと思っていませんか? そうではありません。子どもを育てることは未来の日本を支える人材を育てることです。そのために未来への投資は今しかない。未来の支え手を育てるのに財源を惜しんではならない時です。子どもの成長を社会全体で支え、みんなで喜び合いましょう。社会の一人一人、みんなが主役なのです。私たち一人ひとりがそのように意識を変えていきましょう。もちろん、私たち法人も、皆さまが子どもを安心して育てられるように全力で支援を行う覚悟です。

最後になりましたが、都島友の会創立90周年にあたり、多くの皆様方から御厚志をいただきました。皆様方の貴重な御厚志は、法人の施設の維持と、更なる地域社会への取り組みに使わせていただきます。心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

私たちはこれからも、保護者の方、職員、そして地域の方々と共に子どもたちの成長を大切に見守っていきます。